2014年度の桜蔭中の問題は、
① 過去問に類似した問題であり、
② 論理的に文章や設問を捉えられる生徒に有利な
入試問題だったと言えます。
過去問学習を丁寧に重ねながら、文章の構造や傍線部の解釈、対比や因果関係をつかむ論理的な思考を身につけた生徒にとっては「解きやすい」問題でしたが、物語文が得意な主観で考えるタイプの生徒、論理的な考え方が苦手な生徒、過去問学習を疎かにしていた生徒には「難しく感じた」入試問題だったのではないでしょうか。
では、具体的に見ていきます。
「何かを守る」=「善いこと」とされ、「何かを捨てること・諦めること」=悪とする一般的な考え方に疑問を呈し、何かを捨てることで、他者を受け入れる寛容さと選択の自由を手に入れることができるのではないか、「何かを守る」ことは時として、他者を破壊しても構わないという強さを持つので、それに固執するのは危険ではないかという筆者の考えを述べています。
久しぶりに、哲学的なテーマや戦争を題材にした論説文が出題されました。平成13年一に出題された「遠い朝の本たち」と似たテーマを扱っています。
記述問題はすべて傍線部の理由説明になっています。
問三・四は比較的解きやすいですが、問五は「生まれた赤ちゃん」は何をたとえているのかをしっかり掴まないと解けない難問です。
現に、大手塾でも模範解答が割れているようです。
今年は、国語と社会が合体していて55分で解いていた頃の桜蔭中の設問傾向と似た感じの作りになっています。
今年の受験生からは、文章内容がよくわからなかったという声を聞きました。
論理的に文章構造を捉えて読むことができる生徒に有利に働いた入試だったと言えるでしょう。
問一・二は知識問題なので、省略します。
「何かを捨てること=いいことである」という筆者の考えを読み取り、記述で説明する問題です。桜蔭中を受けるレベルの生徒にとっては、難度は低いでしょう。
傍線部Aの後で、「文化や伝統を守ること」と対比させながら、「何かを捨てることは、他者を受け入れる寛容さと選択の自由を手に入れることができる」と述べているところを押されば、解答にたどり着きます。
「わたし的には」という発言の背景にある人間の心理を考える問題です。問三と同じように、桜蔭中を受けるレベルの生徒にとっては、難度は低いでしょう。
傍線部Bのあとで「わたし的には」と発言している人は、他者からの肯定も否定も求めていない、自分の考えはこうだからと一方的に考えを押し付け、相手との心理的な距離をおくという心の働きがあると述べています。この点を踏まえてまとめましょう。
「生まれたばかりの赤ちゃんでも責任があるから、無差別の暴力の報復の対象となる」のはなぜか、さらに、筆者がなぜ「生まれたばかりの赤ちゃん」を例に挙げたのか、この2点を合わせて考え、まとめる問題です。
特に、筆者が「生まれたばかりの赤ちゃん」を例に挙げた理由を考える問題は、本文中に書かれていることではないため、自分で推理して考えなければなりません。
そういう意味で難問といえるでしょう。
まず、「生まれたばかりの赤ちゃんでも責任があるから、無差別の暴力の報復の対象となる」理由を考えます。これは、傍線部Cの直前の「そのシステム」とは何を指すのかを正確に押さえないと、誤答に繋がります。
この「そのシステム」は、傍線部Cの段落より前の段落で述べられている「世界全体がそういうシステム」に繋がります。つまり、二重の指示語になっているのです。ですから、さらに「世界全体がそういうシステム」が指している内容を探さなければいけません。
そうすると、イギリスで現在でも厳密に守られている階級制度の例で説明している「一つの指輪は、すべてを統べる」ということが、「世界全体がそういうシステム」が指している内容であることに気づきます。つまり、世界は一部の支配者と支配される側に分かれるというシステムの中にあるということです。
このような思考過程を図であらわすと、以下の通りになります。
あとは、傍線部Cの直前の内容に沿って、解答を作成すればいいでしょう。
では次に、筆者が「生まれたばかりの赤ちゃん」を例に挙げた理由を考えます。
生まれたばかりの赤ちゃん=自分の意思がない存在と考えられるかどうかがポイントです。
つまり、自分の意思や考えなど関係なくその恩恵を受けている以上、「責任がある」とみなされるのです。
また問四で考えたこともヒントにして考える(設問のつながり)と、
「自分には関係ない、自分はそのように考えていない」といっても、支配する側の恩恵を受けている以上、テロリズムの報復の対象となるということを強調するために、「生まれたばかりの赤ちゃん」を例に挙げたのではないかと考えられます。
野球少年が相手に打ち込まれた原因を内省していくうちに、詩人のような感受性で野球を捉えていきます。そして、自分の課題を自分で見つけていくというストーリーです。
昨年度(2013年)と似たような文章であり、少年が自分の内面を見つめていくという流れを心情表現や比喩を多用して描いています。
女子が苦手な野球が題材となっている点や、心情や比喩を多用していて抽象的な内容になっているので、文章の理解度はあまり高くはなかったのではないでしょうか。
例年通り、心情記述と心情の変化を200字くらいでまとめさせる問題が出題されています。
ただ一もそうでしたが、例年と比べて記述問題数が少なく、難度も抑えられています。
さらに、語彙に関する問題も5問中3問と多くなっています。
文章の難度が上がっている分、設問の難度を下げているのでしょう。
いずれにしても、文章から読み取れる心情表現を的確に掴んで、解答を作成することを求められており、2013年度の入試問題と似た傾向であると言えるでしょう。
問一・二・三は知識問題なので、省略します。
監督に言われ、恭介が相手チームに打たれた理由を考えているうちに、ピッチングを通して無意識に感じていたことを再認識して興奮している恭介の心情とその理由を説明する問題です。桜蔭中を受けるレベルの生徒にとっては、難度は低いでしょう。
傍線部Aまでの心情過程と傍線部Aの「胸がどきどき」=興奮という心情を結び付けて考えていけばよいでしょう。
監督が恭介に「詩人」と言った理由を考え、200字で記述する問題です。
200字でまとめるという点では難度は高いですが、昨年度と同様に、文章中の心情表現を追っていけば解答にたどり着くので、問題のレベル自体はさほど難度が高いとは言えません。
言動の理由は、傍線部の直後で説明する場合が多いことを知っておきましょう
今回も、傍線部Bのあとの監督のセリフで心情説明がされています。
セリフのポイントは
1. 詩人のような表現を使い、
レポートを書いてきた恭介を見直した=感心、驚き、感動
2. マウンドとの一体感を感じられるピッチャーは理想的、将来が楽しみ
です。
あとは、心情の法則を活用して考えましょう。
心情の法則=今までの様子、関係、心情+心情のきっかけ+心
これを活用し、いままで恭介が相手に打ち込まれ、みじめな思いをしていたこと
+問四で考えた内容を踏まえてまとめていけばいいでしょう。
桜蔭中の過去問は、最低でも10年以上は解きましょう。
桜蔭中の問題の考え方を学ぶには、過去問が一番の教材になります。
「塾の先生に添削されたものや解説を読んで解き直しをする」程度の学習で終わらせてはもったいないです。
時には、制限時間を度外視しても過去問としっかり向き合って、解答までの道筋を論理的に考えてください。そうすれば、桜蔭中の入試問題の解き方のコツがだんだんと見えてくるはずです。
また国語の学習をする時に、文章→設問→傍線部→具体化→対比や因果関係を追う→解答の根拠を探すという論理的な手順をしっかり踏んで、解答を考えていきましょう。
そうすれば、桜蔭中の入試問題にも対応できる論理的思考力を身につけることが出来るでしょう。