2012(平成24)年度の中等部の入試問題は、大問1が物語文の問題、大問2が論説文の問題、大問3が韻文(詩)の問題、大問4がことわざ・故事成語の問題、大問5が、漢字書き取りの問題でした。例年通り、手際よく取り組む必要があり、文章・設問ともに読み落としが取りこぼしにつながってしまう油断ならない問題が並んでいます。たとえば、大問1の問1は、登場人物の気持ちとしてもっともふさわしく「ない」ものを選ぶ問題でした。
続く問2,3,5,6はもっともふさわしいものを選ぶ問題ですから注意が必要です。ことばの知識にかかわる大問4は、ことわざ・故事成語自体がそのままの形で、または空所補充の形で問われる問題ではなく、とまどう受験生もいたようです。大問5の漢字書き取り問題も、語彙力、文脈から熟語を思い浮かべる力が求められる厳しい出題が多いと感じられます。
平成24年度の国語で合否を分けた問題があるとすれば、大問3の詩の問題です。何年か続いた俳句の問題は出題されませんでしたが、韻文の問題は、慶應義塾系としては、備えをしておくべき分野です。題材は、丸山博光 「マア」という犬がいた という詩です。
背景に注意する必要があります。「寒い満州の地で戦っている兵隊たちの毛皮にするため、お宅の犬を供出せよ。」という役所からの一通の手紙によって、家族にかわいがられていた「マア」が連れて行かれてしまうという、物語に近い詩です。この詩に関して、問5で、気持ちをふくめた理由記述の問題が出されており、記述の苦手な受験生は苦労したようです。
この詩を読み解く際には、「供出」という見慣れない言葉の意味を理解する必要があります。「毛皮にするため」ですから、殺して皮をはいで兵隊の防寒具になるわけです。手紙一通で、かわいがってきた家族同様の犬と別れなければならないという状況を、まず、しっかり押さえましょう。そして、最初の出会い、母が名づけたこと、たくさんの思い出、そして誰も供出のために連れて行くことができない状況、察しているかのようなマア、50年間忘れられずにいて、1995年にこの詩を作った作者、と、順に流れをたどって、設問に答えます。
問5は、ふりかえりながら連れて行かれたマアの姿が「胸に焼きついている」理由をその時の「私」(作者)の気持ちをふくめて、「から。」に続く形で十五字以上二十字以内で答える問題です。解答らんの後に「から。」は書いてあるので、その前の部分を考えることになります。
答案に書けそうなことは、マアと作者のつながり、連れて行かざるを得なかったつらさ、くやしさ、後悔、せつなさといった感情でしょうか。
たとえば、
家族同然のマアを供出したことがつらい
大切なマアを助けられなくてくやしい
といった答案が考えられます。
後悔している、せつない、申し訳ない、などの言葉を使うこともできるでしょう。できごとの理解と気持ちとをむすびつけるという基本的なトレーニングができているかどうかが分かれ目になる問題でした。中等部だからということで記述対策をおろそかにせず、基本的な記述のパターンはしっかり練習して仕上げておくことが大切です。
一
問一 A 問二 B 問三 A 問四 B 問五 A 問六 B
二
問一 B 問二 A 問三 A 問四 A 問五 A 問六 B
三
問一 A 問二 A 問三 A 問四 A 問五 B
四 A
五 A
A・・中等部を志望する場合、確実に得点に結び付けなければいけないレベル
B・・中等部を志望する場合、得点しておきたいレベル
C・・難問